36ch

いろいろ

桜咲く、散る前に

またこの季節がやってきた。

どうしても叶えたかった想いがあって、朝早くからカメラを手にして向かうは、船岡城址公園。

白石川の両端に綿菓子のようなふわふわの桜並木が続く。

その背景には、遠くの蔵王山がまだ雪帽子を被っている。

晴れた空の下、自然がもたらす三色の景色を写真に収めたくて、下見に何度か訪れては満開時期の天気予報を気にしていた。

まだ寒いが風もなく晴れている。

あっという間に散ってしまう桜を、条件良く狙うのは、とても大変だ。

さてどうだろか?と車を走らせる。

数年ぶりだ、休みが取れなかったり、悪天候で桜が散ってしまったりと散々だったのを思い出す。

待ちに待ったこの天気、間違いなく好条件だと、胸を高鳴らせて、もう近くまで来ていた。

いよいよか

フロントガラスに蔵王山が飛び込んできた。

青い空に雪帽子、そこに雪解けを運ぶ白石川が桃色の衣を羽織って顔を出した。

なんて綺麗なんだ、期間限定がさらに良く見えてくる。

いくつもある撮影スポットには、すでに多くのファンが機材を抱えて、場所の確保をしているようだ。

焦る、そりゃあそうだ。ここの景色は特に人気がある。何処にしようかと、駐車場を探して彷徨った。

ちょっと離れてるが駐車場を確保して、橋の上に向かって歩く。

橋の上には三脚が並び、ご立派な白レンズが備え付けられ、ハイアマチュアの皆さんが陣取っていた。

遅れて来た私が入り込む場所はなく、それでも空いてる隙間からファインダーを覗く。

ああ…

これだこれ

いつか見た誰かが撮ったあの写真

この景色に魅了されて、今ここにいるんだ。

思わず、やったあと感動の言葉が漏れた。

私の隣の方が、ニコッとしながら天気が良くて本当に良かったと声を掛けてきた。

そうですね、本当に嬉しいですと返したあと、設定などの話をして、互いの写真を見比べては、何度もシャッターを切った。

ひととおり撮影を終えて、隣の方に挨拶をし、橋の下にあるお花見会場へ向かった。

会場は沢山の出店が並び、多くの花見客で賑わって、皆が綺麗だと口にしてるのを耳にする。

土手沿いの桜並木を、出店で買った玉こんにゃくを口にして歩いた。

駐車場近くまでやって来て、一番形の良い桜の木を見つけた。そこから下へ降りる階段の中腹辺りに腰を下ろし、空を仰いだ。

ガヤガヤと人の声に、かき消されながらも、おっ母と呟いた。

良いのが撮れたからな、やっと見せられるよと、心の中にしまっておいた報告をした。

四季の写真をプリントしては、おっ母の仏壇に並べていた。

おっ母よー、綺麗な桜だろう。

遺影に目をやると、ありがとうと微笑んで見えた。